家を建てるなら、やはり環境が良く快適な所が良いと誰もが考えます。しかし、騒音トラブルや土地問題など、ご近所トラブルが起こることも多々あるでしょう。
家を建てる場所を考える際には、「環境権」という考え方や、生活環境を守る法律や条例を知っておくと役立ちます。
今回は、環境権や相隣関係とは何か、そして生活環境を守る条例についてご紹介します。
環境権とは、誰もが快適でより良い環境を享受できる権利のことです。そして、個人が良い環境を享受できる権利であると同時に、地域社会における共同の利益としての環境を守る権利でもあります。
1960年代後半にアメリカ・ミシガン大学の教授により提唱され、1972年に開催された国連人間環境会議のストックホルム宣言において、人間の基本的権利であると明記されました。その後の国際条約においても、環境権の考え方が踏襲されるようになっています。
日本では、憲法第13条(幸福追求権)と第25条(生存権)内に環境権の考え方が盛り込まれています。
所有する土地や住宅などの不動産は、民法206条において法令の制限内であれば自由に使用し処分できる権利が定められています。 隣接した土地と土地は境界線で区切られ、それぞれの所有者に所有権があります。しかし、地続きである以上、土地と土地は地中でつながっています。また、空中も同様です。地中を通じて排水や木の根などが隣地へ侵入したり、空中から臭気や木の葉などが隣地へ侵入したりすることもあります。 このような、隣り合う土地同士がお互いに影響を及ぼし合う関係のことを、相隣関係といいます。
相隣関係に関するさまざまな権利や義務が、民法209条から238条で規定されています。ここでは、そのうち家を建てるときに知っておきたい権利を3つご紹介します。
隣地使用権
家を建てる際に、隣の家の敷地内に足場を組み立てなくてはいけない場合もあります。特に、都心部などの住宅街では必須です。そのため、民法209条で住宅の建築やリフォームをするために隣地の使用をすることを請求する権利が保証されています。
ただし、権利が認められているのは土地への立ち入りのみです。隣地の住宅内への立ち入りに際しては、隣人の承諾が必要です。
また、隣地への立ち入りにより隣人に損害を与えた際は償金を請求されます。
塀や垣根などの囲いの設置
隣地との間に空き地がある場合、塀や垣根などの囲いを設けることができます。囲いの材質や構造は隣人との協議により定めることができますが、協議が整わない場合は2メートルの板塀か竹垣とする、と定められています。
囲いの設置費用や維持費用は、それぞれの土地の所有者が半分ずつ負担します。
囲繞地通行権
土地の区切り方によっては、周囲を他人の土地に囲まれているため公道へ出ることができない場合があります。囲まれている土地を袋地(ふくろち)、袋地を囲んでいる土地を囲繞地(いにょうち)と呼びます。
公道へ出ることができないと生活に支障が出るため、袋地内の住宅に居住する人が囲繞地を通行する権利を保証されています。この権利が囲繞地通行権です。
ただし、自分の土地が袋地であるからといって、囲繞地内であればどこでも通って良いわけではありません。囲繞地にとって最も損害が少ない方法を選ぶことが必要です。公道への距離、囲繞地と公道との位置関係、地形などを考慮した上で、どこを通るかが決定されます。
なお、通行権を行使したことにより囲繞地に何らかの損害が出た場合は、償金を支払う必要があります。
ご近所トラブルなどを防ぐため、生活環境に関する条例を定めている自治体もあります。
例えば東京都の「都民の健康と安全を確保する環境に関する条例」では、騒音と振動の規制基準が明確に定められています。この条例では、第一種低層住居専用地域では、午後7時から翌日午前8時までは40デシベル、午前8時から午後7時は45デシベルを超過してはならない、と書かれています。この規制基準を超過した場合、お住まいの自治体から指導が行われたり、勧告を受けたりする可能性があります。
ほか、区や市ごとに生活環境に関する条例が存在する場合もあります。家を建てる前に、お住まいの自治体の条例を調べておきましょう。
おわりに
家を建てるなら知っておきたい、環境権や相隣関係、生活環境を守る条例についてご紹介しました。
家を建てた後でご近所トラブルが発生しても、建てたばかりの家からおいそれと引っ越すわけにはいきません。家を建てる前に環境権や相隣関係について理解を深め、居住予定自治体の条例を調べておくことをおすすめします。