今まで快適な居住環境で生活してきたのに、隣近所に高層の建物が建ってからは状況が一変。日照や眺望などさまざまな障害が出てきたという話を耳にしたことがある方は多いのではないでしょうか。今回は隣近所の建築をめぐる日照・景観・通風など、いわゆる「相隣関係」の権利についてご紹介します。
日照権とは建築物に対する日当たりや風通しなどを確保する権利のことです。大都市圏を中心に高層住宅が建築されることによって、その周辺の低層住宅に居住する住民の日照が妨げられるという問題から提唱されるようになりました。
日照妨害は騒音やばい煙などの「積極的侵害」ではなく、「消極的侵害」と整理されてきたため、権利というよりは生活利益として法的保護の対象になっています。
今まで確保されていた通風を遮らない権利が通風権です。例えば、隣家が増築されたことによって今までの風通しが遮られ、生活上の快適さが損なわれるだけでなく、住宅自体の老朽化を早めるという財産的な損害を受けるケースなどが考えられます。
さらに日常生活でも洗濯物の乾きが遅くなったり、蒸し暑さがひどくなったりという精神的・肉体的な苦痛を伴うこともあります。
眺望権は、自らの居住地で他の建物などに妨害されることなく、これまで眺望できていた景色が保護される権利のことです。例えば、見晴らしの良い高層マンションを買って住んでいたところ、近くに別の高層マンションが建設されることになり、今までの眺望が確保できなくなるケースなどが考えられます。
長期間、自宅で享受してきた採光を妨害されることなく快適な生活を送ることができる権利が採光権です。採光妨害を禁止する法律はありません。しかし、建築基準法では採光の確保について具体的な規定が設けられています。
住宅地における相隣関係に関するさまざまな問題は、建物が建ってしまった後では遅いため、建ち上がるまでの間に損害賠償請求や建築工事の中止などの差し止め請求や建築禁止仮処分申請などを行うことが必要です。
しかし、居住地域には近隣の住環境を配慮するために、あらかじめ自治体の建築条例や建築基準法によってさまざまな建築規制を土地の用途・地域ごとに定めています。そのため、この条件をクリアした建物が建築される場合は、近隣住民が受ける被害の程度が許容範囲をはるかに超えていると第三者が判断しない限り、差し止めは現実に難しいというのが一般的な見方です。日本の建築基準法には住宅を新築する側には、建物の日照と居室の採光の規定はありますが、隣地の建物に関する規定はありません。
一方、建物が建築法令をクリアしており、これを差し止めることは困難であっても、その建築によって日照や通風に一定以上の影響が生じ、日常生活に甚大な不利益が発生すると思われる場合は、不法行為として慰謝料請求が認められるケースもあります。
また、眺望権は権利としては認められていませんが、例えばマンション購入時に「周囲に高層マンションが建築されることはない」と説明を受けていたにもかかわらず、その後に高層マンションが建築されることになったというような場合、不動産売買時の不当説明であるとして売主や仲介業者へ説明責任を追及することは可能です。
眺望権・採光権・通風権など相隣関係の権利についてご紹介しました。相隣関係は、日常生活において普段から顔を合わせる機会も多いことを考えると、紛争状態を招くことは決して好ましいことではありません。住宅地における相隣関係の権利はケースによって差し止め請求や慰謝料請求など対処方法が異なるため、専門家に相談することをおすすめします。